「
てのひらの宇宙(星雲賞短編SF傑作選)」(
感想)
(編)
大森 望(著)
筒井 康隆 荒巻 義雄 小松 左京 神林 長平 谷 甲州 中井 紀夫 梶尾 真治 菅 浩江 大槻 ケンヂ 草上 仁 大原 まり子その年を代表する最もすぐれた作品をファンみずからが投票で選び
年に一度の日本SF大会というプロアマ入り混じる祝祭の場で顕彰するという
SF界ならではのユニークな特徴を持つ星雲賞。
40回を超す歴代受賞作の中には
本格SFあり幻想文学あり へんてこな話あり、多種多様な作品が顔を揃える。
そんな星雲賞の日本短編部門受賞作から11編を収めた
史上初のオール星雲賞受賞作アンソロジー。
日本SFの歩みがこの1冊に。
『フル・ネルソン』 筒井 康隆
『白壁の文字は夕陽に映える』 荒巻 義雄
『ヴォミーサ』 小松 左京
『言葉使い師』 神林 長平
『火星鉄道一九』 谷 甲州
『山の上の交響楽』 中井 紀夫
『恐竜ラウレンティスの幻視』 梶尾 真治
『そばかすのフィギュア』 菅 浩江
『くるぐる使い』 大槻 ケンヂ
『ダイエットの方程式』 草上 仁
『インデペンデンス・デイ・イン・オオサカ(愛はなくとも資本主義)』 大原 まり子
出だしから筒井康隆の『フル・ネルソン』全編会話のみでスラップスティックな後半に
一気になだれこむ感じがスゴい。
なおかつ、この作品に票を入れる初期SFファンの先達には頭が下がります。
『白壁の文字は夕陽に映える』 一読後、思わず唸ってしまいました。
自分たちが学生の頃は架空戦記(ニセコ要塞シリーズの印象等が非常に強いのですが)
青年の青春の終わりとぞくり、と背筋に寒気が残るようなラストに圧倒されました。
『ヴォミーサ』も、やっぱり上手い。
きちんと過去の作品に敬意を払いつつ、しっかりとした読み応えのある短編とは思えない内容の濃さに
やっぱり、凄いな・・・と思い知らされました。
あとは『言葉使い師』 格好良い。
これも学生の頃から何度も読み返しているのですが
それでも、今でも、格好良さが減じない。
言語(言葉)と物語、あるいは語る者と語られた物語の乖離。
初期の神林作品が追い求めたテーマがしっかりと描かれています。
『火星鉄道一九』 航空宇宙軍史シリーズ。 懐かしいなぁ。
男臭くて良いですね。ミステリー作家の米澤穂信氏が、
「軌道計算できなきゃ(ハード)SF書いたら駄目なんだと思った」と何かに書かれていたのを思い出しました。
『山の上の交響楽』こちらは初めて読んだのですが
遠大な時間をかけ、誰に向けられたのか分からない程の長大な交響楽の物語。
演奏する楽団の人々の人物造詣が見事。
『世にも奇妙な物語』で良く名前を見ていたなぁ・・・と思ったりしていたら
ああ、<能無しワニ>の人か!!
友人がすごく、このシリーズ好きだったなぁ。
『恐竜ラウレンティスの幻視』
こちらも初読。恐竜が知性を持ったらというテーマの作品。
最後のオチもしっかり決まっていて、おもしろかった。
『そばかすのフィギュア』
この話も何度読んでも飽きない。
読後感のなんともいえない、爽やかさと切なさが入り混じっている感じが好き。
『くるぐる使い』
すごく好き。大槻ケンヂらしさが凝縮されていて
『新興宗教オモイデ教』と共に自分の本棚から消えることはないであろう作品の一つ。
『ダイエットの方程式』
ショートショートの名手が『冷たい方程式』に挑んだら
こういう風になるという見本。
『インデペンデンス・デイ・イン・オオサカ(愛はなくとも資本主義)』
オオサカにエイリアンが攻めてきたらというおバカSF(いい意味で)
多分、一気に書き上げたんだろうな、と思わせるようなテンポよく読みきることが出来る作品。
・・・ああ、『ハイブリッド・チャイルド』や『戦争を演じた神々たち』が読みたくなりました。
作品だけでなく編者の解説も十分楽しめますし
各話の後に各著者の自作についての言葉が載っています。
本当に、日本SFの歩みを感じることができます。