他人の顔
![]() | 他人の顔 (新潮文庫) (1968/12/24) 安部 公房 商品詳細を見る |
「他人の顔」(感想)
(著)安部 公房
液体空気の爆発で受けた顔一面の蛭のようなケロイド瘢痕によって自分の顔を喪失してしまった男……
失われた妻の愛をとりもどすために“他人の顔"をプラスチック製の仮面に仕立てて、
妻を誘惑する男の自己回復のあがき……。
特異な着想の中に執拗なまでに精緻な科学的記載をも交えて、
“顔"というものに関わって生きている人間という存在の不安定さ、あいまいさを描く長編。
「名前と仕事を失ったんなら次は“顔”でしょう」と友人“Tくん”の薦めもあり
今回はこの作品。
ラストに関しては賛否両論あると思いますが
個人的に、仮面を作っている工程が好きです。
大藪春彦の作品群でもそうなんですけど
そこまでのディティールの積み重ねが
読んでいて気持ちが良いです。
顔・日常生活でもっとも大きな記号の一つを喪うと
どうなっていくのか。
仮面を作りながら夢想する主人公の姿は
『怪奇大作戦』の『白い顔』を思い出します。
原作版『フランケンシュタイン』『オペラ座の怪人』
愛なのか妄執なのか。
世界から疎外されている(と自分で思っている)者たちの
彼らなりの(ある種)抵抗ともいえるかもしれません。
ラストの受け取り方は男女間でも差があるかもしれないなぁ・・・