「
無名」(
感想)
(著)
沢木 耕太郎一日一合の酒と一冊の本があれば、それが最高の贅沢。
そんな父が、夏の終わりに脳の出血により入院した。
混濁してゆく意識、肺炎の併発、その後在宅看護に切り替えたのはもう秋も深まる頃だった。
秋の静けさの中に消えてゆこうとする父。
無数の記憶によって甦らせようとする私。
父と過ごした最後の日々…。自らの父の死を正面から見据えた作品。
若い頃は色々なものが欲しかった。
なんだかよく分からないけれども、自分には多くの可能性が在って
容易に何者かになれたりするような勘違いをしていた、
努力もさほどしないのに、根拠のない自信のようなものだけがあったが・・・。
無論、努力もしない自信などは、塵、芥ともつかないようなもので
現実を向き合う度にそれは削られ
良い意味でも悪い意味でも、身の丈というものを知るようになった。
得たもの、失ったもの。
トータルで見るとバランスシートは上手く出来ているように思える。
ただ、この作品(私小説とも自らの父を描いたノンフィクションともとれる)を
読み、考えさせられた。
陳腐だけど重要な問題。
これからどう生きるのか。
“老い”や“病気”は
自分が思っている以上の速度で自分の思考や体の自由を奪い
(それがまた、新しい経験となるのかもしれないが)
確実に今の自分とも違ってくるのだろうし・・・
事件や事故はどこに転がっているのか分からない。
人間の力では避けようもない事柄があるのも
ある意味、今の我々は苦さとともに思い知らされている。
人生の重要な選択なんてのはわりと平凡に存在していて
劇的に見えないところがポイント。
焦りすぎても駄目、かといって焦らなさすぎるのも駄目。
まだ、やらなければならないこと、やりたいことのバランスも
加味しながらこれからは、やっていかねばならない。
残り時間がどれだけあるかわからないが。