「
鬼畜」(
感想)
(監督)
野村 芳太郎(原作)
松本 清張(主演)
緒形 拳 岩下 志麻今回のプログ・DE・ロードショー 夏の納涼企画はこれ
まず、DVDのジャケットからして、もうゴメンナサイと泣き言をいいたい
この作品です。
まず最初に登場するのは、ガッチャマンの歌を歌う長男・利一。
半裸の姿で縁側に居る長女・良子。
そしてようやく立てるようになった次男・庄二。
暮らし向きはあまり良くなさそうな三人の子供たち。
その三人を見やる母親の菊代(小川真由美)の顔にも疲労と苛立ちの色が濃く出ている。
意を決し、せかすように三人の子供を従え、菊代はある場所へと向かう。
宗吉(緒形拳)が経営する小さな印刷屋・竹下印刷
菊代は最初に恐る恐る、竹下印刷を覗き込む。
事情を知っている従業員の印刷工(蟹江敬三)はあわてふためく。
そんな時、ちょうど、二階から降りてきた宗吉。
彼の元に駆け寄る子供たちから出た言葉は
「お父ちゃん!!」
その一言で事情を察する本妻・お梅(岩下志麻)
三人の子供は宗吉が囲っていた菊代に産ませた隠し子だったのだ。
ただ、竹下印刷は火事や他の印刷会社との価格競争等で
商売は低迷しており
菊代にもで十分な金銭(手当て)を与えられなくなってしまった。
約束が違うと、菊代は宗吉の家に乗り込んだのは良いが
宗吉は、逃げるように、菊代と子供たちを路地に連れ出し
優柔不断で誠実さの全くない言動を繰り返す。
カッとなる菊代。
「
お金の都合がつかない?それでほっとくんですか?
そんなのって・・・ある?」
「・・・いや、だから、明日、明日は必ず出掛けていくから、今夜ん所は」
「
明日、明日、明日って・・・あんたの明日なんてあてになるもんか!」
「まちがいねぇよ・・・金の都合もつくあてもあるんだ」
「
今までほっといて、どうして急にあてができるのよ。いい加減なこといわないでよ!」
そこにお梅との冷たいが、激しい言葉が飛ぶ。
「
あんたァ、みっともないよ、ご近所に。
うちん中、入ってもらいな。
泥棒猫じゃあるまいし、暗いところでなくたって、かまわないんだろ?」
(もう、正直言って、この時点で勘弁してもらいたいのですが・・・)
どっちにもいい顔をしようとする宗吉を尻目に
今度は、菊代とお梅の争いが勃発。
口論した挙句、宗吉に絶望した菊代は
ヒステリックにわめき散らし
子供三人を宗吉に押しつけて蒸発する。
困惑する宗吉に
お梅は、自分の子供でないものの面倒はみないと冷たく言い放つ。
しかし、それは想像を絶する地獄の日々の単なる始まりでしかなかった・・・
本当に、どの役者さんの演技が凄い。
主演の緒形拳の演技も凄い。
気弱で、優柔不断で恐らく、経営が上手くいっていたなら
女房に疑われることもなく二重生活をおくれていたであろう男。
小川真由美演じる菊代も、意を決して乗り込んできた割には
自分の立場を知っていて、最初にすまなさそうに入ってくるところや
生活の疲れ、そして感情を爆発させるところも見事。
そして、志麻姐さんが怖い。本気で怖い。
学生の頃一回観て『極道の妻たち』より
「こっちの方が心底、怖い・・・」と友人たちと話したことを思い出しました。
苦楽を共にして来た夫に裏切られ、愛人の子供たちは最初から憎くて仕方がない。
怒鳴ることは当たりまえで、次男坊の庄二にご飯を無理やりねじ込ませようとするシーンは
「もう勘弁してくれ・・・」と思わず、口にしてしまうレベル。
まだ、小さい庄二が満足な食事も与えられずに
栄養失調状態となり、医師にも叱責されるが・・・
ある時、その庄二の上に落ちるはずのない場所にあった
シートが被さり庄二は死亡する。
その後の「あんたもひとつ気が楽になったね」というお梅のセリフ。
その“死”を起点に、貪るようにお互いの肉体を求める二人。
罪悪感なのか、死から連想した生(性)への欲求なのか。
鬼畜というタイトルを思わず噛み締めてしまいます。
そこから、夫婦は残り二人の子供をも処分しようと画策します。
まずは長女・良子。
父親と二人で東京に遊びに行くのですが。
デパートのおもちゃ売り場で、ラジコンやモンチッチの所を
「見ておいで」と口にする宗吉。
おそらく、子供なりの鋭敏な感覚でそれに無意識に気がついているのか。
何度か離されても、すぐに父親の服のすそを掴んで離さない良子。
(この段階で自分の涙腺は崩壊寸前だったのですが・・・)
デパートの上の階のレストランで
自分の本名や家の住所を言えるかどうか確認する父親・・・
その最低の父親に対して良子が耳打ちする言葉。
「あのねぇ、あのね・・良子・・・おとうさんすきですよ」
あまりのことに、しばしDVDを停止し呆然としてしまいました。
無意識のうちの防衛本能から発せられた言葉かもしれませんが・・・
そんな子供を・・・・
しばし、時間を置いて覚悟を決めて再生すると
東京タワーに二人がやって来ました。
小銭を入れると見える備え付けの双眼鏡で
東京の街を見下ろさせます。
しばし、葛藤に苦しむも
退屈がる良子にトイレに行く旨を告げ
再度小銭を双眼鏡に入れる。
よろめく様に、エレベーターに乗り込む宗吉。
彼の目には、一心に双眼鏡を覗き込む娘の姿。
エレベーターのドアが閉まろうとした瞬間
振り向く娘。一瞬、しかし確実に目が合う親子。
思わず、駆け寄ろうとする宗吉だったが、ドアは閉まる。
虚脱した表情で、エレベーターの降下に身を任せる宗吉の顔。
東京タワーから出て、下から見上げる画像の凄さ。
主人公の抱えきれない罪の大きさのようにも見えます。
そして、最後に残った利一。
利一は母親を求め、昔の家に向かいますが
そこには既に新しい家族が楽しそうに暮らしていました。
その後に警察に保護されるのですが
恐らく、自分が殺されそうであることを
理解しつつあったため、パトカーで保護された時に
利一は自分の名前と住所を答えることができることを証明します。
これはある種の牽制のつもりだったかもしれませんが。
逆効果で、夫婦はそうは考えずに、逆に利一を殺す決意を固めます。
ここで、お梅が洋服のタグ・名前等を丹念に切り取っているシーンも
地味ですが本当に怖いシーンです。
果たして、利一をどうなってしまうのか?
一体、誰が鬼畜なのか?
最初に三人の子どもを捨てた実の母・菊代なのか。
それとも、虐待し、殺人を勧めるお梅なのか。
やはり、一番の鬼畜は父である宗吉。
特に、その優柔不断さが真の鬼畜のような気がします。
あるいは、想像力の欠如、無計画さも含め
中途半端に良心が残っているところも
人間性が残っていたというべきか
結局のところ、わが子を助けよう行動しないところも含め、狡いのか。
学生の時は、覆いかぶさるような東京タワーが印象的だったのですが。
(またその“罪の象徴”とも言えるものを利一との旅の中で
上手く使ってくれますが・・・)。
再見して、良子と目が合うシーンが、印象に残りました。
原作は
等に収録されている同名短編です。