「
彼女について」(
感想)
(著)
よしもと ばななうーん。
なかなか、上手く説明できないなぁ・・・
ストーリーを要約したり
話の筋立てを追う小説ではない感じがします。
それでも、この著者の視点で見る世界。
一応、同じ時代、同じ国を生きているはずなのに
こんな風に世界を、人間を、見ることができるというのは
本当にすごいと思います。
そして、その状況や感情、登場人物の性格などを
言葉として切り取る能力。
一見、平易な言葉を使いながら
実は、著者の感性というフィルターを通って
ものすごく完成度の高い、練られた言葉を選択しているように感じました。
ささいなことを
実はささいなことではないと思わせてくれる
良い、そして、やはり、不思議な作品でした。
気に入った文章を抜粋します。
「土台ってなんですか?」
私は言った。
「それはあなたやそちらの高橋さんが持っているもの、そして私が持っていたものよ。」
隈さんは言った。
「この世は生きるに値すると思う力よ。抱きしめられたこと、かわいがられたこと。
それからいろいろな天気の日のいろいろな良い思い出を持っていること。
美味しいものを食べさせてもらったこと、思いついたことを話して喜ばれたこと、
疑うことなく誰かの子供でいたこと、あたたかいふとんにくるまって寝たこと、
自分はいてもいいんだと心底思いながらこの世に存在したこと。
すこしでもそれを持っていれば、新しい出来事に出会うたびにそれらが喚起されて
よいものも上書きされて塗り重ねられるから、困難があっても人は生きていけるのだと思う。
土台なのだから、あくまでそれは上に何かを育てていくためのものなのよね、
きっと(中略)」
あとはヒロインの内面も面白いです。
さようなら、この部屋、と鍵をかけて、次はいつここに帰って来るかわからない。
そういう、先がなくて淋しくてひやっとする気持ちになるときがいちばん楽しい。
あとは、
メスを家に連れて来て、何かおいしいものを食べさせて、心地よくさせて、動けなくさせる。
他の男のところよりも自分のところが住みごこちがいいということを思い知らせる。
いつまでも自分のメスを確保して行く為に、食べ物をとってきて、きちんとケアして
メスだけが持っている暗黒の力をずっと自分の手のうちにとどめておく。
私は私でメスなので、そんなずるいことをそのまま受け入れられる。
などなど、色々なところで発見のある作品です。