「
シナン」(
感想)
(著)
夢枕 獏史上最大のモスクに挑んだ天才建築家シナンの生涯
16世紀、壮麗王スレイマン大帝のもと繁栄を誇るオスマントルコ帝国に
工兵から宮廷建築家へと昇りつめ
100年の生涯で477もの建築を手がけ
象なき神を空間に描こうとした男の物語。
東西文明の混淆する地を舞台に描く渾身の歴史長篇。
(帯より)
上巻は正直、あまり盛り上がらない。
どうしても、資料の著者なりの解釈を読まされている
感じであったり
シナン自体にも著者の従来の主人公
「沙門空海」「シッダルータ」たちと重なる部分が多く
友人として登場するハサンというキャラクターも
「シン」などのキャラクターを薄くしたような感じがします。
ただ、本当に話が動き出すのは
上巻の後半の方からであって
“神をとらえるにはあのやり方ではだめだ。
おそらく、建物、建築こそが、神をそこに降ろすもの―
神の依代として最もふさわしいのではないのか。
自分なら、できるのではないか。
神が、そこに宿るための空間を、おれならば創造できるのはないか。”
「神を捕らえる」
著者はシナンの口を通じてこのように語らせる。
それは作中で語られる
イスタンブールにある
“人が造り出した、もっとも神がよく見える場所”
聖(アヤ)ソフィア
に対するシナンの言葉でもあり
それは著者が他のエッセイ等で再三に語る傑作
山田正紀「神狩り」に対する著者の言葉でもあるように思う。
そして、下巻にてある人物から語られる言葉。
“人は、いつ死ぬにしろ志半ばで死ぬのだよ”
これも再三語られる
尊敬する手塚治虫の死によって著者が得た結論に対し
また、“問い”に対しての“答え”として
「仕事をしなさい」
(中略)
「それ以外に答えを得る方法はないよ。人に問わずに、仕事に問うことだ。
自分の手に問う事だ。仕事をしなさい」
力強い声であった。
「様々なことが我々を襲ってくる。病。死。権力争い。戦。女。
それこそ数えきれないほどのものが、常に我々を襲ってくるのだ。
しかし、どのようなことが我々を襲ってこようとも、我々には仕事がある。
この手がある。仕事をすることだ。
自分のはらわたをひり出してしまうほど、仕事をしなさい。
仕事をしなさい、シナン。仕事をすることだ。
どのような不幸も、禍いも、我々から仕事を奪うことはできないのだ。
我々が仕事を望む限りはね。
仕事をしなさい。仕事をするのだ。
これは自戒の念を込めて言うのだが、結局、我々にはそれしかないのだ。
仕事をしなさい。きみの仕事が、きみのその問いに答えてくれるだろう。
仕事が、きみにその答えをもたらしてくれるだろう。
仕事をしなさい――」
・・・どれだけ、仕事するんだという気もしますが(笑)
著者なりの答えであることは確かだと思います。
スレイマン大帝
イブラヒム
ロクセラーヌ
終章でそれらの人物たちを思い出し
時の流れを感じさせながら
序章としっかり連動させ
結実させる手腕は見事です。
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